作品プロフィール
タイトル:『アダムの創造』
作者:ミケランジェロ・ブオナローティ
制作年代:1508~1512年
サイズ:480cm × 230cm
技法:フレスコ
場所:システィーナ礼拝堂(バチカン市国)
解説動画のご紹介
本記事の内容は,YouTube上にて動画形式でご覧になることも可能です。
音声も入ってより分かりやすく解説しておりますので,よろしければ是非ご覧ください!
はじめに
風にマントをなびかせ,宙を舞う威厳あふれる姿の老人。
力強く伸ばした腕の先には,裸で地面に横たわり,力なく老人に向かって腕を伸ばす若者の姿があります。
さて,この絵はどんな場面を表しているのでしょうか?
そして,隠されている謎とは?
解説
この絵が描く場面は,タイトルから知ることができます。
タイトルは『アダムの創造』です。アダムとはイヴと並んで最初の人類の名前です。この絵は「神による人類創造の瞬間」を描いているのです。
威厳ある風貌から分かるように,宙に浮かんでいる老人が神で,周囲の少年たちは天使です。
「天地創造の7日間」の6日目,神は土から自分の姿に似せた人形を作り,その鼻から命を吹き入れてアダムを創造しました。(旧約聖書「創世記」第1章27節)
1日目…天と地(宇宙と地球),昼と夜
2日目…空
3日目…大地と海,植物
4日目…太陽と月と星
5日目…魚と鳥
6日目…獣と家畜,人間
7日目…(お休み)
この絵が描いているのは,まだただの土人形であるアダムに,神が「命(魂)」を吹き込む場面です。
堂々たる体躯を持ちながらもどこか無気力な姿勢・表情で覇気を感じさせないアダム。
神が力強く伸ばした腕の指先とアダムの指先の間にはわずかな隙間がありますが,その隙間が埋められた瞬間に命が吹き込まれることを鑑賞者に予感させます。
実は,指と指とを触れ合わせて生命が吹き込まれるという表現はミケランジェロ独自の解釈に基づく表現なのですが,これだけ印象的かつ劇的に人類誕生の場面を描けるところに,ミケランジェロの芸術家としての力量の高さが表れています。
(※なおミケランジェロは自分自身を画家よりもむしろ彫刻家であると考えていたらしく,彫刻作品としては『ダヴィデ』像などが有名です)
ちなみに,アダムが裸体をさらけ出して恥ずかしそうにもしていないのは,まだエデンの園で知恵の実を食べるという「原罪」を犯しておらず,無垢であるからです。
この名画の「ナゾ」
さて,上記の解説を踏まえた上で残る謎が2つあります。
①イヴはどこにいるのか?
②マントのはためきが不自然ではないか?
では,順番にこの謎を解いていきましょう。
①イヴはどこにいるのか?
『アダムの創造』というタイトルですが,アダムと共に最初の人類とされる「イヴ(エヴァ)」はどこにいるのでしょうか?
調べてみたところ,イヴはアダムから作られた存在であるため,この絵の場面ではまだ登場していないことが分かりました。
神はアダムを創造した後,アダムを助ける存在としてもう1人の人間を創造することにします。
まずアダムを深い眠りに落とし,アダムの肋骨の一部を抜き取って女性を創造しました。
これを見たアダムは,
「これこそ私の骨の骨,私の肉の肉。これをこそ,女と呼ぼう」
と言い,女性と結ばれます。
イヴと名付けたのは神ではなくアダムで,「イヴ」はへブライ語で「生命」という意味です。ちなみに,アダムは同じく「土」と「人」という意味です。
②マントのはためきが不自然ではないか?
次に,マントのはためきの謎についてです。
この絵の中では,明らかに画面左から右に向かって強い風が吹いています。
それは,マントのはためきや,神や天使たちの髪の毛や髭の流れ方から見て間違いないでしょう。
さて,一見自然な様子で風にはためいているようにこのマントですが,不自然に膨らんでいる箇所があります。
神が伸ばした腕の向こう側,マントの最も左の部分です。
この部分に描かれている天使は陰になってやや表情が不鮮明な1体のみで,その上下が空洞のようになっています。
よって,左から強風が吹きつけているならば,マントの左部分は絵のような綺麗な弧を描きません。
では,これは何を表すのでしょうか?
神と天使たち,そしてそれを包むマントが人間の脳の断面を表しているという説があります。
確かに,断面図で見ると非常にそっくりな形をしています。
また脳は,生きるための意思の源となる部位です。
意思を持たない土人形であるアダムに,今まさに意思が備わる瞬間を描いている絵なので,この説には非常に説得力があるといえるのではないでしょうか。
後世への影響
この絵はあまりにも有名であり,様々な映像作品等でオマージュされています。
スティーヴン・スピルバーグ監督が少年と宇宙人の交流を描いた映画『E.T.』(1982)では,少年と宇宙人の心の触れ合いの象徴として,指と指とが触れ合うビジュアルがポスターに採用されました(本編中には該当シーン無し)。
異質なもの同士が,指先を触れ合うことで意思の疎通を図るという点に『アダムの創造』に通じるものを見出すことができます。
また日本でも『ウルトラマンティガ』(1996)で,戦いで劣勢となり地面に倒れたウルトラマンが辛うじて上半身を起こし,人々の与える光に指を伸ばして復活するシーンがあります。
こちらは同画面に『アダムの創造』がビル看板として映り込んでおり,より直接的にオマージュであることを示す名シーンとなっています。
余談:NHKの美術番組『びじゅチューン!』
NHKの美術番組で『びじゅチューン!』という番組があります。
世界の有名美術を題材に,映像アーティストの井上涼さんがオリジナルの歌とアニメーションを展開する番組で,私のイチオシが今回取り上げた『アダムの創造』がベースになっている『猫の手もアダムの手も借りたい』です。
一度聞くと耳に残る,とても印象的な作品となっているので是非一度ご覧になってみてください。
まとめ
今回は『アダムの創造』を取り上げました。
その結果,以下のようなことが分かりました。
・『アダムの創造』は,神による人類創造の瞬間を描いた名画
・土人形であったアダムに神が触れることで魂が込められ,意思を持つ人間となった
・イヴはアダムの誕生の後,アダムの体の一部から創造された
・神々と天使とを包み込むマントは,人間の脳の断面を表しているという説がある
美術作品には,素人だからこそ様々な視点で楽しめるという魅力があります。
今後も様々な作品を取り上げて鑑賞,考察していきたいと思います。
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最後までお読みいただきありがとうございました!!
参考書籍