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なるほど名画解説!−ラファエロ『アテネの学堂』−

なるほど名画解説!−ラファエロ『アテネの学堂』−

作品プロフィール

タイトル:『アテネの学堂』
作者:ラファエロ・サンティ
制作年代:1509~1510年
技法:フレスコ
サイズ:500cm × 700cm
場所:バチカン宮殿バチカン市国

はじめに

なるほど名画解説!−ラファエロ『アテネの学堂』−

神殿のような風格の漂う建物に集まる多くの人々。
あちこちに人の輪ができ,今にも話し声が聞こえてきそうです。

しかし,よく見ると話している人だけではなく,1人佇んだり,思索に耽ったり,階段の途中に寝そべったりと様々な人がいることに気づきます。

さて,この絵はどんな場面を表しているのでしょうか?
そして,隠されている謎とは?

解説

この絵が描いているのは,「アテネの学堂」。
アテネはギリシャの首都として有名ですが,古代ギリシア時代から既に都市国家(ポリス)として発展していました。

都市国家(ポリス)とは?

アクロポリス(神殿)を中心に,人々が住む地域を城壁で囲んだ都市中心の国家のことです。

この城壁の内側に住む貴族や平民男性が国家の将来像や運営方法について活発に議論を交わし,ときにはポリス同士で争いが行われることもありました。

中でもアテネはギリシア最大のポリスであり,民主政とギリシア哲学が大いに発展した場所でした。

先述のように,アテネでは人々が議論によって政治を行う民主政が発達していました。

議会にあたる「民会」や法廷での弁論術を磨きたいという需要が生まれ,弁論術を教える「ソフィスト」が活躍しました。

ギリシアではこうした議論や学問の発達する土壌があり,多くの哲学者や科学者,数学者が生まれました

この絵は,そんなギリシアの賢者たちが一堂に会する様子を描いています。

ソクラテスプラトンアリストテレスといった大哲学者を始めとして,ペルシアの宗教であるゾロアスター教の開祖ゾロアスターや,古代マケドニアのアレクサンドロス大王など,時代や場所が全く異なる人物も描かれています。

この名画の「謎」

さて,上記の解説を踏まえた上で,残る謎が3つあります。

①なぜ異なる時代・場所の人が同じ絵の中に描かれているのか?
②なんだか見覚えのある登場人物がいないか?
③画面中央の2人は何を話しているのか?

では,順番にこの謎を解いていきましょう。

謎①なぜ異なる時代・場所の人が同じ絵の中に描かれているのか?

先述のように,この絵の中には様々な時代・場所の偉人たちが集まっています。

有名人だけでも以下のようになります。
(リストには各人の詳細情報にご興味のある方向けにWikipediaのリンクも付けました。
特に⑧ディオゲネスはなんと樽の中に住んだ面白い哲学者です)

登場人物の解説

  1. エピキュロス (快楽追求のエピキュラス学派の祖)
  2. アレクサンドロス大王 (マケドニア王)
  3. ソクラテス (「無知の知」で有名な哲学者)
  4. プラトン (「イデア論」を唱えた哲学者)
  5. アリストテレス (現実を重視し,学問を分類した哲学者)
  6. ゾロアスター (ゾロアスター教の教祖)
  7. ユークリッド (古代ギリシアの幾何学者)
  8. ディオゲネス (反プラトン派哲学者,ソクラテスの孫弟子)
  9. ヘラクレイトス (「万物は流転する」と説いた哲学者)
  10. ピタゴラス (「三平方の定理」で有名な数学者)

卑近な例で申し訳ないのですが,ゲームの「スマッシュブラザーズ」のような豪華さを感じますね。

さて,なぜこれだけ多種多様な人たちが勢揃いしているのでしょうか?
その答えは,この絵の依頼主と,描かれた場所を考えると明らかになります。

この絵の制作を依頼したのは,16世紀初頭の教皇・ユリウス2世。

ユリウス2世(ラファエロによる肖像画)ユリウス2世(ラファエロによる肖像画)

描かれた場所は,バチカン宮殿。
サン・ピエトロ大聖堂に隣接する,ローマ教皇の住居です。
この絵が描かれている「署名の間」は,ユリウス2世の学問のための部屋でした。

「人類の智と徳の一切を描いた壁画を描いてほしい」

これがユリウス2世の希望だったため,ラファエロは古今東西の賢者たちが一堂に会する絵を描いたのです。

実際の建物のアーチ(一番手前)と,絵の中の天井のアーチが絶妙にリンクし,見る人を絵の中の世界に引き込みます。

謎②なんだか見覚えのある登場人物がいないか?

次に浮かぶのが,「なんだか見覚えある人がいない?」という疑問です。
特に,中央の赤いローブをまとった白髭を蓄えた人物。

プラトン

先述のようにこれはプラトンですが,どこかで顔を見たような…?

レオナルド=ダ=ヴィンチの肖像

そう,この人です!レオナルド=ダ=ヴィンチ

ラファエロは,ギリシアの賢者たちを同時代のルネサンス芸術家の姿を借りて表現したのです。

よく見ると画面の右端でこちらに目を向けている人物は,ラファエロ自身です。

ラファエロも登場

ラファエロの自画像ラファエロの自画像

また,階段の手前で眠り込んだような姿で熟考しているヘラクレイトスはミケランジェロがモデルとされています。

ヘラクレイトス

ミケランジェロの自画像ミケランジェロの自画像

謎③画面中央の2人は何を話しているのか?

さて,この絵の中の人々は一体どのようなことを話しているのでしょうか?

特に,画面中央で議論をしながらこちらに歩んでくる2人の大哲学者,
プラトン(左)とアリストテレス(右)のジェスチャーが気になります。

プラトンとアリストテレス

プラトンは天を指差し,アリストテレスは地面に掌を向けています。

この2人は師弟関係にあり,ソクラテス→プラトン→アリストテレスの順番で師匠と弟子の関係が継続しました。

ここで,この2人の哲学思想を考えてみましょう。

プラトン ➡︎  常に変化する物質世界の背後には,永遠に不変である「イデア(物事の真の姿,本質)」が存在し,現実世界は理想の世界であるイデア界を模範として存在するべきとした

アリストテレス ➡︎ 物事の本質は現実世界の中に存在するとし,哲学・天文学・生物学・心理学など,多くの学問を分類して体系立てた

アリストテレスはその業績から「万学の祖」と言われ,アレクサンドロス大王の家庭教師を務めたことでも有名です。

師弟関係にありながら,正反対と言っても良いプラトンとアリストテレス。

その2人の思想の違いを,手のジェスチャーで的確に表現したラファエロの力量には,脱帽するしかありません。

まとめ

今回は『アテネの学堂』を取り上げました。
その結果,以下のようなことが分かりました。

・『アテネの学堂』は,古今東西の偉人を集めて人類の知を表現した名画
・時代も場所も異なる賢者たちが描かれているのは,ローマ教皇の学問の部屋の壁画だから
・ラファエロは登場人物の姿を同時代の芸術家に似せて描いた
・中央にいる2人は対照的な哲学思想を持つ師弟のプラトンとアリストテレス

美術作品には,素人だからこそ様々な視点で楽しめるという魅力があります。

今後も様々な作品を取り上げて鑑賞,考察していきたいと思います。
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最後までお読みいただきありがとうございました!!

※この記事の『アテネの学堂』の画像は壁紙Link様のものを使わせていただきました

参考書籍

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猫と糖分を愛する経営コンサルタント