アート

なるほど名画解説!−ドラクロワ『民衆を導く自由の女神』−

作品プロフィール

タイトル:『民衆を導く自由の女神』
作者:ウジェーヌ・ドラクロワ
制作年代:1830年
場所:ルーヴル美術館(フランス)
技法:油彩

はじめに

民衆を導く自由の女神

地面に倒れた人,人,人。
それを踏み越え前進する人々の手には,一様に銃や剣が握られています。
背景には白煙が立ち昇り,大規模な戦闘が起こっているようです。
そして特に目を引くのは,フランス国旗を高々と掲げて人々の先頭に立つ女性の姿です。

さて,この絵はどんな場面を表しているのでしょうか?
そして,隠されている謎とは?

解説

この絵が描いているのは,「フランス七月革命」。
1830年7月27日~29日にかけてフランスで起きた市民革命です。

この絵をより深く理解するためには,フランス革命の流れを知っておくと良さそうなので,下に整理してみました。

フランス革命の流れ

1789年に始まったいわゆる「フランス革命」では,伝統的な貴族たちの支配に反発した民衆が中心となって国王ルイ16世を処刑し,主導権を握る派閥が次々と入れ替わりました。

そして,最終的に台頭したナポレオンが1799年に革命の終結を宣言したことで10年間に及んだ革命は一旦終了しました。

ナポレオンナポレオン

そのナポレオンがロシア遠征に失敗して没落すると,1814年のウィーン会議を経て,フランスでは王家(ブルボン朝)による支配が復活し,処刑されたルイ16世の弟・ルイ18世が国王として即位します。

さらにその次に国王となった弟のシャルル10世は,自分に反抗的な勢力が議会多数を占めることとなった選挙結果を認めず議会の解散と言論統制を行いました。

シャルル10世シャルル10世

これに激怒したのがパリ市民です。
1830年7月27日に蜂起した民衆は一部貴族の応援も得ながら国王軍と3日間に渡って激しい戦闘を繰り広げ,ついに勝利します(フランス七月革命)。

軍人でもない民衆が自ら武器を取って立ち上がり,ついに自由を勝ち取ったことから,フランスではこの革命を「栄光の三日間(Trois Glorieuses)」とも呼ぶそうです。
今回ご紹介する絵は,その時立ち上がった民衆の様子を描いたものなのです。

さて,改めてこの絵を眺めてみましょう。

民衆を導く自由の女神

全体的な印象としては,何とも言えない重厚感・高揚感があります。
描かれている人物のほぼ全員が何らかの武器を持ち,その雄叫びが聞こえてきそうなドラマチックな画面となっています。

戦闘の対立構造としては「民衆 vs 国王軍」です。
人物の服装からも分かるようにこの絵の主人公は民衆で,画面左奥から手前に向かって勇ましく攻め込んできているような構図となっています。

地面に倒れている軍服姿の男性2人が国王軍ですが,よく見ると右後方には軍隊が整列して民衆に向かって激しく発砲しています。

発砲する国王軍発砲する国王軍

左手前の地面に倒れている2人は民衆側なので,この絵は「画面左から中央に勢いよく進出してくる民衆 vs 画面右に追いやられる国王軍」という構図を取っていることが分かります。

ここには,画家ドラクロワの明らかな「民衆への思い入れ」が見て取れます。

実際に,ドラクロワはこの絵を手掛けた32歳の頃,兄に向けた手紙でこのように述べています。

今度僕は,現代の主題に取りかかりました。
バリケードのテーマ(※)です。(中略)
祖国のために敵を打ち破ることはできなかったにしても,少なくとも国のために作品を描くことはできるでしょう。

(※バリケードのテーマ…労働者や学生など多くの民衆がフランス七月革命に参加したことを指している)

ドラクロワは元来,絵画を政治や思想の道具にすることを嫌う画家だったと言われています。

しかし,フランス七月革命を目の当たりにして自由を求める民衆に大いに共感し,物理的な戦闘には参加できないものの,画家としての力を活かして2.6m×3.3mという特大サイズの作品を完成させたのです。

ドラクロワの自画像ドラクロワの自画像

この名画の「謎」

さて,上記の解説を踏まえた上で,残る謎があります。

民衆の先頭に立つ女性は何者なのか?

この絵の中で最も目立つ,フランス国旗を掲げて先頭に立つ女性。
この女性は一体何者なのでしょうか?

この女性の名は,マリアンヌ
実在の女性ではなく,「自由」を擬人化した女神,つまり「自由の女神」です。

左手に銃を持っているために実在の人物かと錯覚してしまいそうになりますが,よく見ると瓦礫の上に載せた左足は素足であり,上半身の服もはだけているという格好で,とても戦闘向きのスタイルとは言えません。

実際に,画面左から中央に進出してくる民衆は,誰一人としてこの女神の存在を認知していません
下の画像の緑色の線は,民衆の視線を可視化したものです。
先ほど見たように,画面右側には国王軍が待ち構えているので,民衆はそちらを見据えて前進しており,視線は女神を素通りしています。

そして女神はそんな民衆がきちんと自分の後ろについてきているかを確かめるように後ろを振り返り,民衆全体に視線を投げかけています(画像赤線)。

ところがこの中でただ一人,誰にも見えないはずの女神の姿をはっきりと認識して見つめている人物がいます。
女神の足元に倒れながらも何とか身を起こしている,ボロボロの瀕死の男性です。
彼は服装からして民衆側の人物であり,他の民衆には見えていない女神に視線を投げかけています。(画像青点線)

はっきりと表情が見えませんが,死が近づいたことで,自分たちが傷つき倒れながら手に入れようとしていた「自由」が自分たちと共にあることを認識できた,という風に解釈することができます。

一方で自由の女神が視線を投げかけているのはこれから生きて自由を手に入れようとする民衆の方です。

しかし,民衆には女神の姿が見えていません。

つまりこの絵画の中で目を合わせている人物の組み合わせは一組もなく,混乱に満ちた革命の様子が伝わってきます

さて,もう一度,自由の女神の姿をよく見てみましょう。

女神は何やら特徴的な形の帽子を被っています。
この帽子はフリジア帽といって,古代ローマに起源を持つ帽子です。

フリジア帽フリジア帽を被った古代ローマ神の彫刻

古代ローマでは,解放された奴隷が自由になったことの証としてフリジア帽を身に付けたと言われています。
フランス革命では王侯貴族の支配に反発し,自由を求めて立ち上がった民衆の象徴として使用され,当時読み書きのできなかった人も多かった民衆の結束に役立ちました。

ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』において,マリアンヌがフリジア帽を被っているということは,自由や正義が民衆の側にあることを強く示唆しています。
そしてこの絵が広く知られるようになって以降,フリジア帽を被ったマリアンヌは単に自由の象徴でなく,フランスそのものの象徴となっていきます。

現代では,マリアンヌはその時代のフランスを代表する女性著名人の顔をモデルとして,フランス各地の役所や公的な場所に胸像が設置されたり,切手になったりとフランス人から非常に愛されるフランスの象徴となっています。

後世の文化への影響

『民衆を導く自由の女神』は,その劇的な構図や鮮やかな色使い,そして自由の女神マリアンヌという魅力的なモチーフから世界史上に残る名画となりました。

ドラクロワが描いたマリアンヌは人々が追い求める自由の象徴として,ニューヨークの自由の女神像のモデルともなりました。
(持っている物こそ違いますが,ポーズなどがよく似ています)

この自由の女神像は,アメリカのイギリスからの独立100周年を記念し,フランス人の募金により建造されたものです。
共に伝統的権威に対する革命を経験し,自由を愛する国同士の友好の証として,自由の女神はこの上ないモチーフだったのです。

自由の女神像自由の女神像

また,『民衆を導く自由の女神』は,現代ポップカルチャーにも大きな影響を与えています。
その知名度からオマージュが漫画作品等に登場することも多く,また有名なアーティストとしてはイギリスの人気音楽グループ「Coldplay」のアルバム『Viva La Vida』のジャケットに採用されています。

YouTubeのColdplay公式チャンネルの同曲の再生回数は2020年12月時点でなんと6億5千万回超(!)となっています。
名曲なので是非一度聴いてみてください。

まとめ

今回はドラクロワの名画『民衆を導く自由の女神』を取り上げました。
その結果,以下のようなことが分かりました。

・『民衆を導く自由の女神』はフランス七月革命を描いた名画
自由を求めて立ち上がった民衆と,それを率いる自由の女神の姿を劇的に描いている
自由の女神(マリアンヌ)の姿は,瀕死の男性以外の人物からは見えていない
・この絵画で描かれて以降,マリアンヌは自由の象徴からフランスそのものの象徴となった
・アメリカの『自由の女神像』や現代アーティストなど,後世にも大きな影響を与えた作品である

美術作品には,素人だからこそ様々な視点で楽しめるという魅力があります。

今後も様々な作品を取り上げて鑑賞,考察していきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました!!

参考書籍

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永遠に実らない猫への愛を抱き続ける経営コンサルタント