アート

なるほど名画解説!−俵屋宗達『風神雷神図屏風』−

作品プロフィール

タイトル:『風神雷神図屏風』
作者:俵屋宗達(たわらや・そうたつ)
制作年代:17世紀
技法:紙本金地着色
サイズ:154.5cm × 169.8cm
場所:建仁寺(日本・京都府)

【2021年・最新展示情報】
京都国立博物館の特別展「京(みやこ)の国宝─守り伝える日本のたから─」で,『風神雷神図屏風』の展示が決定しました!
京都ゆかりの国宝や皇室の至宝が一挙に公開される貴重な機会ですので,お近くにお住まいの方や旅行で出かけれらる方は是非ご覧になってみてはいかがでしょうか。

※会期自体は7/24(土)〜9/12(日)ですが,『風神雷神図屏風』は8/24(火)〜9/5(日)の限定公開となっておりますのでご注意ください。
詳しい情報は公式サイトでご確認ください。

展示される右隻部分展示される『風神雷神図屏風』の右隻部分

 

はじめに

風神雷神図

黒雲に乗り,宙を舞う異形の者たち

鬼のような見た目ですが,笑ったような表情のせいか,どこかユーモラスな印象を受けます。

さて,この作品は何を描いているのでしょうか?
そして,隠されている謎とは?

解説

この作品が描いているのは,「風神と雷神」。

風が吹き,雷が落ちるといった自然現象を神の仕業と考えた人々が,鬼神の姿を借りて自然現象を擬人化したものです。

西洋の宗教画と違い,特定のストーリーが原型となっているわけではありませんが,そのためにかえって自由な視点で鑑賞を楽しめそうです。

さて,改めてこの作品を眺めてみましょう。

風神雷神図

前提として,この作品は「絵画」ではなく「屏風」であることに注意しなければいけません。

画像では一枚の絵画のように見えますが,中心から左右二つに分離する構造となった一対の屏風です。

右側に描かれている緑色の鬼神が風を司る「風神」,左側に描かれている白色の鬼神が雷を司る「雷神」です。

全面に金箔が貼られ,背景となる風景は一切描かれていないシンプルな画面が,見る者に荘厳さを感じさせます。

注目したいのは,風神と雷神が乗っている黒雲の表現です。
濃淡が力強く表現され,雲の厚みの場所による相違や,雲のフワフワ感が表現されています。

この雲の存在によって画面に立体感が生まれ,金箔がただの背景ではなく「天空」であることが鑑賞者に伝わります。もしこの雲が無く,風神・雷神の姿のみが描かれていたら…と想像してみると,かなり平面的な作品になってしまっていたかもしれません。

この雲は,「たらし込み」という技法で描かれています。

たらし込み
➡︎筆に絵の具を含ませて絵に塗り,それが乾かないうちにさらに別の色の絵の具をたらしていくことで,紙の上で絵の具を絶妙な加減で混ぜ合わせる日本画の技法。

『風神雷神図』の場合は,金地の上で銀泥(銀の粉末を膠水で溶かしたもの)とを混ぜ合わせ,刷毛で雲を描いている。

次に,風神・雷神に注目してみましょう。

風神雷神図

風神・雷神はそれぞれツノの生えた鬼神の姿で描かれています。

ファッションを見てみると,風神も雷神も「裳(も)」と呼ばれる古代のズボンのようなものを履いていますが上半身は裸で,「肩巾(ひれ)」と呼ばれる,天女の羽衣のような細長い布を肩にかけています。

天女天女

 今度は持ち物を見てみましょう。

風神が持っている白い布のようなものは「風袋」と呼ばれるものです。

風神

この中に風を閉じ込め,袋の口を開くことで風神は自在に風を吹かせることができるとされていました。

一方の雷神が身体の周りに張り巡らせているのは「雷太鼓」で,これを雷神がバチで打ち鳴らすことによって地上に雷を落としているとされていました。

最後に,風神・雷神の体つきに注目です。

風神・雷神ともに手足は筋骨隆々としてたくましいですが,お腹が突き出てややメタボ気味となっており,笑っているような表情と併せてユーモラスな印象です。

また,手足の指は人間と同じく全て5本ずつとなっています。

この『風神雷神図』は,俵屋宗達が京都の三十三間堂の風神・雷神像をモデルに描いたとされています。
三十三間堂の像では風神が手の指4本・足の指2本,雷神が手の指3本,足の指2本の表現となっています。

より人間に近い体つきとなったことで,見る人にどこか親しみやすさを感じさせます。

 

この名画の「謎」

さて,上記の解説を踏まえた上で,残る謎が2つあります。

謎①風神と雷神,2人の関係性は?
謎②画面中央が広く空いている理由は?

謎①風神と雷神,2人の関係性は?

まず気になるのは,風神と雷神の関係性です。

画面左右に配置されるこの神々は,友人なのでしょうか?それともライバルなのでしょうか?

私は初めてこの作品を観たとき,神々の戦いを描いていると思ったのですが,どうやらそういうわけではなさそうです。

カギとなるのは,雷神の視線です。
風神・雷神それぞれの視線を可視化してみます。

風神雷神の視線

風神の視線は画面左の雷神の方に向けられていますが,雷神の方はというと,画面下方へと目をやっていることが分かります。

そして,雷神の視線と手足の動きは連動しています。
雷神が手に持っているのは雷太鼓を叩くためのバチですから,今にも地上に雷を落とそうとしているポーズのようです。

風神はそこに画面右の空間から駆け込んできた,という瞬間を描いているのではないでしょうか。

雷も風も,激しい嵐の一部を構成する自然現象です。
つまり,風神雷神は「相棒」といった関係性にあると考えられます。

この仮説を裏付けるべく,次の謎に進みましょう。

謎②画面中央はなぜ広く空いているのか?

次に気になるのは,この作品の中央部分が広く空いていることです。

風神・雷神の姿は画面右端・左端のギリギリに配置されており,中央部分に身体が一切はみ出していません。

もしこの作品が単に風神・雷神を描くだけであれば,ここまで神々の姿を端に寄せて描くことはないはずです。

実際,風神・雷神の手足は中央部にはみ出さないようギリギリの位置に描かれており,この配置が意図的であることは明らかです。

それでは,作者である俵屋宗達は何を意図してこの構図を取ったのでしょうか?

結論として,以下2つの理由が考えられます。

  1. 画面外に広がる空間を意識させるため
  2. 画面中央に配置される「何か」を引き立たせるため

前提として,この作品がどのような経緯で制作されたかを確認しておきましょう。

俵屋宗達の代表作として知られるこの作品は,江戸時代の京都の豪商であった打它公軌(うだ・きんのり)が,菩提寺である建仁寺の末寺(支配下にある寺)である妙光寺に寄贈するために宗達に制作を依頼したものと考えられています。

つまりこの作品は,寺院という仏教の空間に配置されることを前提とした,宗教的意味を持っているのです。

この前提をしっかり意識した上で,もう一度作品を見てみます。

風神・雷神ともに衣服や道具の一部が画面外にはみ出していることに気づきます。

先ほど確認したように,この配置は宗達が意図的に設定したものです。
この「はみ出し」は,画面外の空間を意識させるための工夫と見ることができます。

そもそもこの作品が「絵画」ではなく「屏風」であることに注意が必要です。独立した芸術作品というより,空間を彩る道具としての側面を備えた作品です。

かつ,寺社に奉納されるものなのですから,仏教空間としての寺の室内を引き立てるものでなくてはなりません。

宙を舞う風神・雷神の姿をあえて画面外にはみ出すギリギリの位置に配置することで画面外の空間と一体化させ,まるでこの屏風が置かれる空間そのものを風神・雷神が浮かんでいるかに思える構図としたのではないでしょうか。

そして,寺院への寄贈物というバックグラウンドが,ぽっかりと空いた画面中央の空間の謎を解き明かすヒントにもなります。

この作品に描かれている風神・雷神は,京都の三十三間堂の風神・雷神像をモデルにしたとされています。

三十三間堂三十三間堂

そしてその三十三間堂の風神・雷神像が左右で睨みをきかせながら守っているものこそ,「千手観音像」です。

三十三間堂には1000体もの千手観音像が安置されており,風神・雷神像はその前列の左右で千手観音の眷属・二十八部衆と共に千手観音像を守っています。

三十三間堂内部の千手観音像三十三間堂内部の千手観音像

つまり,風神・雷神には「千手観音を守る一対の従者神」としてのキャラクター設定がされているわけです。それはちょうど,寺院を守護する金剛力士のペアのようなものです。

金剛力士金剛力士

そして,三十三間堂に立ち並ぶ1000体の千手観音像は,いずれも像の表面に漆箔(しっぱく。漆を塗った上に金箔を貼り付ける加工方法)が施され,まばゆい黄金色の輝きを放っています。

左右を風神・雷神像に守られて立ち並ぶ1000体の千手観音像。それは,まるで黄金の海のような幻想的な光景です。そして,その黄金の海に風神・雷神が浮かんでいるかのようにも思えます。

もし宗達がこの光景を目にして『風神雷神図』を制作したとすれば,

・作品の中央部が大きく空いていること
・背景が金箔一色によってシンプルに表現されていること

にも合点が行きます。

風神・雷神が従者神であるからには,具体的な姿こそ描かれていないものの,中央には主役たる何ものかの存在が意識されます

それは「千手観音」,あるいは「」,はたまた「無限に広がる仏教世界」などが考えられます。

そもそも『風神雷神図屏風』は,左右で一対となる屏風であり,ピッタリと合わさるよりは図のように少し離れて置かれることが想定されて制作されたのではないでしょうか。

屏風模型屏風の簡易模型(筆者作成)

このように配置された際に,画面外や,左右の屏風に挟まれた中央の空間を意識させるための工夫が施されているように思われます。

このような工夫により,仏教世界の一部である寺院の空間に屏風が自然に溶け込むようになります。

一見シンプルに見える構図には,天才絵師・俵屋宗達の創意工夫が詰め込まれていたのです。

後世への影響

では最後に,この作品が後世に与えた影響を見ていきましょう。

『風神雷神図』は,今や日本を代表する芸術作品として国内外に広く認知されるようになりました。

2008年に北海道で開催された洞爺湖サミットでは,各国首脳が集まる会議場に『風神雷神図屏風』の複製が設置され,日本の伝統的な芸術を効果的にPRしました。

2018年には海を渡り,パリにて「京都の宝ー琳派300年の創造」展の目玉として展示され,日によっては入場制限がかかるほどの人気を博しました。

また,2020年東京オリンピック・パラリンピック記念硬貨(500円)の図柄としてデザインが採用されました。

「風神雷神図」の他に「富士山」「国立競技場」の案があったものの,全国からの投票の結果,投票総数(66,318票)の43%(28,741票)を獲得し,2位の国立競技場(21,053票)に7700票もの大差をつけるほどの人気ぶりを見せつけました。

『風神雷神図屏風』は,『富嶽三十六景』などとともに,今後も日本を代表する芸術作品として受け継がれていくことでしょう。

まとめ

今回は俵屋宗達の名画『風神雷神図屏風』を取り上げました。
その結果,以下のようなことが分かりました。

・『風神雷神図屏風』は,風の神と雷の神を描いた芸術作品
・京都の三十三間堂の風神・雷神像がモデルになっているとされる
風神と雷神は一対のパートナーと考えられる
画面外や画面中央に意識が向かうように構図が工夫されている
日本を代表する芸術作品として国内外で人気である

美術作品には,素人だからこそ様々な視点で楽しめるという魅力があります。

今後も様々な作品を取り上げて鑑賞,考察していきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました!!

参考書籍

 

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猫と糖分を愛する経営コンサルタント