突然ですが、あなたの機嫌は今、良いと言えますか?それとも悪いでしょうか?
どんな人でもちょっとしたことで不機嫌になってしまうことはあると思いますが、この記事に辿り着いたあなたはきっと、そんな状況を改善して上機嫌で過ごしたい、と考える素晴らしい人間性をお持ちの方なのだと思います。
ただ、私が考えるに、「不機嫌になったから自分の機嫌を自分で取らなくては」と考えるよりも、「不機嫌になりそうだから、平常心に戻ろう」と考える方がより効果的で、精神衛生上有用であるように思えます。
自分を上機嫌にするのではなく、何もなかったかのような穏やかな心を維持する、という発想の転換こそが大切なのです。
そこでこの記事では、架空の人物Aさんの身近なストーリーを元に、不機嫌になりそうな時にどうすればよいのかを詳しく解説していこうと思います。
身近な例:Aさんが不機嫌になった体験
Aさんは地方の会社員で、ある日東京での仕事のための出張が入り、ホテルに前泊することにしました。
Aさんの今回の仕事は昼過ぎからの予定なので、朝は急いでホテルを出る必要はありませんが、東京観光をするほどの精神的余裕があるわけでもありません。
そこでAさんは、ホテルのルームサービスを利用し、ブランチを取ることにしました。
部屋に置いてあったルームサービスのメニューを見ると、仕事前に最適な野菜を中心としたメニューが見つかりました。
メニューの注意書きには、「フロントへの電話もしくは備え付けのiPadからご注文ください」と書いてあります。
最近のホテルにはルームサービス専用の端末があるのだ、と感心しつつも、電話の方が早いと判断したAさんはフロントに電話をかけることにしました。
フロントの男性は一言目から面倒くさそうな対応な上、電話注文をしようとしたら明らかに迷惑そうな反応を示しました。
ホテルのフロントの電話応対としては、とても良い対応であるとは言えません。
Aさんは電話でも良いと書いてあるのに明らかに迷惑がられたという理不尽さに腹が立ち、そして言葉の端々から漂うフロントの男性の不機嫌さが伝わってきて、Aさんまでも不機嫌になってしまいました。
自分の機嫌を自分で取るための発想の転換法
さて、このようなとき、どうしたら良かったのでしょうか?
当然のことですが苛立ちや怒りに任せて部屋の備品を破壊したり、食事を届けに来た人に暴言を吐いたりすることは無意味ですし、まともな人間のすることではありません。
また、やけ食いしたり他のことを考えたりして忘れようとすることも、効果的ではありません。
取るべき行動は、
- 荒ぶった感情を言語化し、理解する
- あくまで冷静に・合理的に考える
という2つのステップです。
どういうことか、詳しく解説していこうと思います。
①荒ぶった感情を言語化し、理解する
まず何よりも先にやるべきことは、不機嫌になっているその状況を客観的に捉えるために、言語化することです。
いわゆる「メタ認知」をする、ということですが、こうすることで、当初は自分の機嫌を取ることが目的だったのが、いつの間にか自分の感情が動いた原因を探ることを目的にすることができます。
すると、マイナスに大きく振れてしまった感情をプラスに戻すという大変なことに取り組む必要がなくなり、あくまで何故感情がマイナスの方向に動いてしまったのかを考えるだけでよくなるのです。
具体的にどのようにするかというと、頭の中で渦巻く感情を強制的に言語化し、頭の中から追い出してしまうのです。
詳しいやり方は赤羽雄二さんの『ゼロ秒思考』で紹介されている「メモ書き」が非常に参考になります。
簡単に本の内容をまとめると、
- A4のコピー用紙1枚を横にして使い、頭の中のことをボールペンで全て書き出し切る
- 1分間で1枚を使い切るスピード感で行う
- 紙の上にテーマの見出しを書き、その下に箇条書きでテーマの内容を書いていく
- 1枚1分を1日10枚、つまり1日10分のメモ書きを毎日行う
というものです。
この手法のミソは、1枚1分という制約を設けることで無駄に頭の中でぐるぐると考えることをせず、強制的に頭の中のものを言語化して外に取り出せる、というところです。
毎日の習慣としてのメモ書きを続けることで常にクリアな頭で思考することが出来るようになるとされていますが、今回のAさんのような、突発的に感情が動く出来事に遭遇した時に「メモ書き」をすることもとても有効です。
まずは自分の感情を言語化し、どのような感情に苛まれているのか、そしてそれはなぜ起きてしまったのか、ということを自分自身で理解することが、不機嫌な自分に向き合う第一歩です。
Aさんが今回不機嫌になってしまったタイミングでメモ書きを行うと、次のようなことが言語化できたのではないでしょうか。
今、どんな感情なのか
⇒とにかく不機嫌
なぜ今自分は不機嫌なのか
⇒部屋のメニューには電話で注文可能と書いてあったのに、実際に電話をしたら邪険にされてしまったことが理不尽だと思ったから
⇒およそ客に対してとる態度とは思えない電話の応対の仕方に気分を害したから
なぜそういったことが起きたら不機嫌になってしまうのか
⇒部屋のメニューに書いてあることが絶対的なルールで、それをフロントの男性も確実に認識しているはずだ、と考えていたから
⇒ホテルのフロントの応対は心地よいものだ、という認識があるから
なぜフロントの男性はあのような対応だったのか
⇒ブランチの時間帯だったのでホテルスタッフは清掃で忙しく、そんな時に電話がかかってきたから
⇒まだ新人で、電話応対の練習をしたことがなかったから
⇒部屋のメニューは実は古いもので、現在は端末での注文に完全移行しているものの、部屋のメニューの表記を更新していなかったから
⇒フロント側ではメニューを更新していると誤認していて、それなのに電話してくることに腹が立ったから
②あくまで冷静に・合理的に考える
さて、Aさんは、①のステップのメモ書きによる感情の言語化を通して、
- 自分が不機嫌であるという現状
- 何故不機嫌になってしまったのかの原因
- 不機嫌になるような事態が起きた原因
を言語化し、理解することができました。
この段階で既にAさんはメタ認知に成功し、自分を俯瞰して捉えることが出来るようになっています。
あとは、あくまで冷静に・合理的に考えることで対処することができます。
こうすることで問題の対処が必要かどうかを考えることになるので、機嫌を取る、という当初の目的意識は完全に消失し、通常の精神状態を維持するために何をする必要があるかどうかを考えるという段階に移行するのです。
Aさんの場合で言うと、不機嫌になった原因の一部はもちろんフロントの男性にあるのですが、かといってAさんがその男性からなんらかの実害を受けたわけではありません。
仮に精神・身体・金銭などの面でその男性から被害を受けている場合はその被害を補償してもらうために適切な行動を(冷静に)取る必要がありますが、今回はそのような被害は受けていません。
つまり、Aさんは自分自身の感情を理解・分析した時点でこれ以上何をする必要もなくなったのです。
ここで重要なのは、無駄に判断をしない、ということです。
これは仏教の教えに基づく考え方で、草薙龍瞬さんの『反応しない練習』で詳しく解説されています。
この本では、
- 「判断」は「こうあるべき」といった「妄想」に基づいたものなので、そもそも意味がない
- 自分も他人も否定してはいけないし、あくまで自分は自分
といったことが書かれていて、無駄に判断をせず小川のせせらぎのような精神を維持する方法が語られています。
この考え方に基づいて次のように考えると、Aさんは不機嫌な状態から平常の精神状態に戻れるはずです。
- 自分はホテルのフロントの応対はこうあるべき、という妄想に囚われていた
- 一部の原因はホテルやフロントの男性側にもあったかもしれないが、自分の電話のタイミングなどにも問題があったかもしれない
- 誰が悪いわけではなく、構造とタイミングの問題で摩擦が生じただけ
- 実害があるわけではないので、原因が分かったらこれ以上このことについて考える必要はない
まとめ
今回は、Aさんがホテルのルームサービスの注文をする仮想のストーリーを元に、自分の機嫌を取るためにはどうしたら良いのか、ということについて書きました。
不機嫌な状態から上機嫌な状態へと大きく舵を取ろうとすることは効果的ではなく、不機嫌な状態の自分をメタ認知し、冷静に・合理的に考えることこそが正しい対処法です。
上機嫌になろうとするのではなく、不機嫌な感情を自分から切り離して、穏やかな精神状態に戻ることを目指す、という発想の転換こそが大切なのです。
この考え方に基づいた対処法を繰り返していくうちに徐々に対処までの時間スケールが短くなり、そのうち不機嫌になる前に対処が完了し、常に平穏な心を保ち続けることができるようになるはずです。