はじめに
皆さんは,ゲームはお好きですか?
私は特に任天堂のスーパーマリオシリーズが大好きです。
初めて触れたゲームがゲームキューブの「マリオカート ダブルダッシュ‼︎」(2003年発売)で,それ以来15年以上マリオシリーズのファンです。
特にゲーム好きでない人でも,マリオやゼルダ,カービィといったキャラクターの名前は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
今回は,世界中で愛されるゲームを生み出し続ける「任天堂」の企業分析をしていきます!
任天堂は超お金持ち企業!?財務状況を分析
2020年6月,東洋経済ONLINEに「コロナに負けない「金持ち企業」トップ500社」という記事が載りました。
この記事によると,任天堂のネットキャッシュは2020年3月時点でなんと1兆2167億円!
約3700社以上ある日本の上場企業の中でソニー(1兆8851億円)に次ぐ第2位の金額となっており,まさに桁外れの超お金持ち企業と言えます。
ネットキャッシュ(net cash)
➡︎「現預金 + 短期有価証券 – 有利子負債」の式で計算される,企業の手元資金。すぐに使えるお金をどれだけ持っているかという指標なので,その企業が倒産しやすいか,しにくいかを見る際などに重視される。
ネットキャッシュが豊富な企業は不景気に強いと言われる。
では,そんな任天堂の財務状況はどうなっているのでしょうか。
2021年3月に発表された2020年度の決算資料から,貸借対照表を見てみましょう。
(出典:第81期報告書より作成)
この貸借対照表から分かることは,主に以下の通りです。
①「自己資本比率」が高い
➡︎総資産(=流動資産+固定資産)のうち,借金などではない自社の資産(純資産)の比率(自己資本比率)が79.7%に達する。一般に,40%あれば相当優秀と言われるがその2倍という驚異のデータとなっている。
②すぐに現金化できる「流動資産」の割合が高い
➡︎総資産のうち,流動資産が占める割合が77.6%に達する。すぐに現金化できない土地や建物と違い,流動資産は現金や株などすぐに現金化できる資産なので,任天堂は借金を返す能力が非常に高いことが分かる。
以上より,任天堂は相当な額の資金を持っていて借金の比率が少ないにも関わらず,もし借金をしてもすぐに返せるような財務体制を取っていることが分かります。
これは一体どうしてなのでしょうか?
なぜ任天堂はこれほどお金を貯め込むのか?
なぜ,任天堂はこれほどお金を貯め込む経営をしているのか。
その謎を解くカギとなりそうなのが,売上高と営業利益の推移です。
(出典:各年度の株主向け報告書より作成)
これを見ると,主に以下のようなことが分かります。
①売上高と営業利益の上下が激しい。まさに天国と地獄
➡︎このグラフを見てまず驚くのは,売上高と営業利益が年度によって乱高下していることです。2008年度に過去最高の売上高・営業利益を出してわずか5年後の2013年度には過去最低の営業利益,-464億円を叩き出しています。(あの任天堂がまさかの赤字!)
②ゲーム機がヒットするか否かが業績に直結する
➡︎そして,上記の業績の乱高下を作り出している最大の原因は,「ゲーム機がヒットするか否か」です。世界で1億台以上売れる大ヒットとなったゲーム機である「Wii」の発売があった2006年度~2010年度は好調だった業績が,同1,356万台と,Wiiの8分の1程度しか売れなかった「Wii U」が主力機だった2012年度~2016年度まで低迷しています。その後,現在も品薄状態が続く「Switch」の大ヒットで業績がV字回復しています。
このように,任天堂は新しいゲーム機がヒットした時の爆発力が凄まじい反面,新ゲーム機が売れなかった時の落ち込みもまた大きいことが分かりました。
これこそ,任天堂が多くの手元資金を貯め込む理由です。
最新ゲーム機は5年前後と比較的短期間で世代交代していきます。
Wiiのように大ヒットしたとしても油断はできず,Wii Uの頃のような売上不振の「冬の時代」にしっかり備えて手元資金を残しておかなければ,新ゲームを開発する資金が捻出できなくなる恐れがあるということです。
Wii U時代のように,-500億円レベルの赤字を出したとしても,2020年3月時点で1兆5000億円以上の純資産があれば,とても雑な計算ですが30年間新ゲーム機をヒットさせることができなくても会社は存続できることになります。
任天堂が目指す未来とは?
さてここまで,任天堂の財務状況と,ビジネスの特徴を見てきました。
ここまで読むと,任天堂はかなり保守的な企業のようにも思えてしまいますが,決してそんなことはありません。
最後に,任天堂が未来に向けてどのように進化していくことを考えているのか,その方向性についての考察を行っていきたいと思います。
ここで,2020年度の損益計算書を見てみましょう。
(出典:第81期報告書より作成)
Switchのヒットにより,2020年度の営業利益は6,406億円,営業利益率は36.4%と,非常に高い水準になっています。
一方,費用にも注目してみましょう。2020年度有価証券報告書によると「販売費及び一般管理費」3,298億円のうち,研究開発費は932億円となっています。
下記の表は任天堂の研究開発費の推移です。
(出典:各年度の有価証券報告書より作成)
最新ゲーム機のヒット如何に関わらず,毎年500億円以上の研究開発費用を投じていることが分かります。
任天堂は,常に次の事業のための投資を怠っていないということです。
ではこれだけの投資を行い,任天堂はどんな未来を描こうとしているのでしょうか?
個人的には,任天堂は「伝統的なゲーム機+ゲームソフトの売り切りビジネスからの脱却」を急いでいると考えています。
考えられる任天堂の今後の経営戦略の3つのキーワードは
- 知的財産の活用
- ゲームと現実世界の融合
- 海外
です。
それぞれ見ていきましょう。
①知的財産の活用
まず第一に,任天堂は今後ますますIP(intellectual property,知的財産)を活用したビジネスを展開していくことになるでしょう。
任天堂は,すぐに思いつくだけでも
・スーパーマリオシリーズ
・ゼルダの伝説シリーズ
・どうぶつの森シリーズ
・スプラトゥーンシリーズ
などの世界に通用する強力なコンテンツを多数保有しています。
こうしたゲームのキャラクターに代表される知的財産を使い,ゲーム以外のあらゆる事業(キャラグッズ販売・他企業とのコラボ・イベント施設とのコラボ,映像作品化など)での展開可能性を模索していくでしょう。DeNAとタッグを組んだスマートフォン向けゲームも新しい試みの一つと言えます。
背景には,従来型のゲーム事業一本足打法への危機感があります。
任天堂全体の売上に占めるゲーム事業の売上は,下記グラフに示すように,2019年度でなんと96%に上ります。(出典:第80期報告書より作成)
ここには載せていませんがWii時代やWii U時代にはゲーム事業が同98%~99%を占めていました。
だからこそ最新ゲーム機のヒット如何によって売上が乱高下するのがこれまでの常であり,ゲーム機+ゲームソフトにより支えられる直接のゲーム事業以外の収益源の確立が急務となっているのです。
この記事では詳しくは触れませんが,毎月課金型の会員制サブスクリプションサービスとして「Nintendo Switch Online」を運営しているのもその一環と言えます。
2015年度の有価証券報告書で,それまで基本戦略として掲げられてきた「ゲーム人口の拡大」からさらに踏み込み「任天堂IP(知的財産)に触れる人口を拡大する」ことが初めて発表されました。
実際,近年の任天堂は広く支持されている自社のキャラクターをはじめとする知的財産を大いに活用する方向に舵を切っています。
下のグラフは年度ごとのIP関連収入の推移を示したものです。
(出典:各年度の株主向け報告書より作成)
例としては,2019年11月に国内初の任天堂直営オフィシャルストアとして渋谷PARCO内にオープンした「Nintendo Tokyo」が挙げられます。
私も時々訪れますが,いつ行っても任天堂コンテンツの人気ぶりに驚かされます。
また,2021年春にはユニバーサル・スタジオ・ジャパン内に世界初の任天堂のテーマパーク「SUPER NINTENDO WORLD」がOPENしました。
このように,顧客がリアルの場で任天堂キャラクターと触れ合える機会が今後ますます拡大されていくであろうことは間違いありません。
②ゲームと現実世界の融合
次に考えられるのは,「ゲームと現実世界の融合」です。
任天堂が毎年多額の研究開発費を計上しているのは先述の通りですが,その成果が具体的にどんな製品群に現れているのかを考えてみます。
以下の例は,いずれもこうした研究の成果と思われるSwitch用ソフトです。
①NINTENDO LABO
➡︎ゲームのプレイヤー自身が段ボール製のコントローラーを組み立てて遊ぶという,「ゲーム×工作」の要素を持った野心的なソフト群。VR KITでは,手軽にVR体験を楽しむことができる。
②リングフィット アドベンチャー
➡︎プレイヤーが体を動かすとゲーム中のキャラクターがそれに連動した動作をするゲーム。大ヒットした「Wii Fit」や,「ポケモンGo」などと同じく,日常生活の中でゲームを楽しみつつ本格的なエクササイズができる,「ゲーム×フィットネス」の要素を備えたソフト。
③マリオカート ライブ ホームサーキット
➡︎マリオが乗った車のラジコンを走らせると,ラジコンに搭載されたカメラから前方の映像がゲーム機の画面に映し出され,自宅を舞台にマリオカートのレースが楽しめるゲーム。
SNSや動画サイトへの投稿とも相性の良い,「ゲーム×リアル玩具」の要素を備えたソフト。
こうした作品群はいずれも従来のゲームソフトの枠を大きく飛び出す作品たちであり,現時点でヒットするかどうかは別として,任天堂の野心的な投資の成果と言えます。
他の注目ゲームソフトとして『はじめてゲームプログラミング』という,楽しくプログラミングの考え方が学べるソフトも発売されており,「ゲーム×教育」という新たな領域への挑戦がうかがえます。
③海外
最後のキーワードは「海外」です。
任天堂はゲームメーカーとなってから伝統的に海外売上比率が高く,近年は約70%~80%が海外での売り上げとなっています。(2019年度は77%)
これは日本企業としては非常に高い水準です。
要因としてはマーケット規模が約1.2億人の日本に対して北米市場(約4.7億人)・EU市場(約4.5億人)が圧倒的に大きく,こうした巨大市場で通用するだけのコンテンツを任天堂が持っているからです。
ゲーム事業以外の事業展開という意味では,この巨大市場においても任天堂ファンを維持・拡大していくことは至上命題であることは間違いありません。
個人的な予想ですが,日本でのテーマパーク展開(SUPER NINTENDO WORLD)が成功すれば,ディズニーランドやハリーポッターのテーマパークのように,海外でも同様のテーマパークを展開していくなどの取り組みを行い,任天堂IPに触れる人口を拡大していくことは十分に考えられます。
まとめ
今回は,任天堂が大好きという個人的過ぎる理由から企業分析を行ってみました。
任天堂は,自らの使命を「任天堂の商品やサービスを通じて、世の中の人々を笑顔にすること」と定義しています。実際に,誰しもが一度は任天堂のゲームで家族や友人と遊び,楽しい時間を過ごしたことがあるのではないでしょうか。
今回,そんな任天堂を様々な資料を使って分析する中でますます好きになり,1ファンとして応援していきたくなりました。
今後も様々な企業を取り上げて企業分析を行っていければと思います。
最後までお読みいただき,ありがとうございました!!
参考書籍