「確信犯」という言葉を日常的に使う、という人も多いのではないでしょうか?
「あいつは分かっててわざとやっているな、確信犯だ!」などのように使われることが多いように思います。
しかし、このような使い方は、実は誤用であるということはご存知でしょうか?
この記事では、「確信犯」の正しい意味と使い方、類義語や対義語、英語での使い方などを解説します。
記事の最後には「確信犯」を誤用している人の割合や誤用が広まった背景についても解説・考察しているので、最後までお読みいただけると嬉しいです!
「確信犯」をみんな誤用している?本当の意味とは
「確信犯」の正しい意味・使い方と誤った使い方は?
「確信犯」という言葉の本当の意味について、まずは辞書で確認してみましょう!
確信犯とは、本来は「自分の行為が正しいという信念に基づき遂行される犯罪行為」を指す法学用語である。昨今では、世間的には、「悪いことだと理解していながら敢えて行われる悪事、および、そのように敢えて悪事を働く者」という意味合いの言葉と解釈されている。
実用日本語表現辞典
このように、「自分自身は正しいと確信して」行う犯罪行為を「確信犯」とするのが本来の正しい意味です。
政治犯や思想犯、国事犯などが「確信犯」として扱われることになるようです。
元々は西欧の法哲学上の概念の訳語として誕生した言葉らしく、法律上は悪事であるとみなされる行為であっても、政治・宗教・道徳的な普遍的価値感に照らして考えると善行であると確信できるような、そのような確信に基づいた犯罪行為を指す言葉が本来の「確信犯」だったようです。
中国語圏では「信条犯」や「信仰犯」という言葉が用いられることもあるようで、こちらの方が字義的には理解しやすいのではないでしょうか。
「確信犯」の正しい使い方
自身の理想とする世界のために独断で犯罪者を裁く夜神月は、確信犯であると言える。
「確信犯」の誤った使い方
クラスメートが今期のアニメをYouTubeで視聴したと言っていたが、あれが違法アップロードであることは彼も理解しているはずなので、確信犯に違いない。
「確信犯」の言い換えや類義語は何?
「確信犯」という言葉の意味や由来についてはご理解いただけたと思います。
それでは、「確信犯」の類義語としてはどのようなものがあるでしょうか?
「確信犯」の類義語としては、「思想犯」「政治犯」「国事犯」などが挙げられます。
「思想犯」は国家体制に反するような思想に基づいて行われる犯罪や、その犯人のこと。
「政治犯」は国の政治的な秩序を侵害するような犯罪や、その犯人のこと。
「国事犯」は「政治犯」とほぼ同じ意味で、国の政治的秩序を侵害するような犯罪・犯人のことを指します。
どの言葉も、「自らが正しいと確信しているような信念を持ち、それに基づいて犯罪行為を犯す」という点で、「確信犯」と近い意味を持ちます。
「確信犯」の対義語は何?例文は?
複数の対義語辞典で確認したのですが、「確信犯」の対義語として明記されている言葉は確認できませんでした。(※調査不足の可能性があるため、ご自身でご確認ください。)
そこで、ここからは筆者の妄想なのですが、「確信犯」という言葉の意味から対義語を仮で置いてみようと思います。
「確信犯」という言葉には、次の2つの要素が含まれます。
①自らが正しいと確信している信念を持っている
②現行法においては犯罪とみなされる行為、またはその犯人
この2つの要素のうち、どちらか、または両方を反対の意味に置き換えることで、対義語が導き出せるはずです。
パターンは、①②両方が逆、①のみが逆、②のみが逆の3パターンです。
①②両方が逆のパターン
単純に①と②の意味を逆にすると、次のようになります。
①自身に信念や確信めいたものがない
②現行法において犯罪とみなされない行為、またその行為の主体者
つまり、「特に信念なく行われる、犯罪性のない行為、またはその主体者」ということになります。
これではあまりに範囲が広すぎて、対義語として絞り込むことが困難になってしまいます。
特に「犯罪性のない行為」の範囲が広すぎることに問題があるようです。
②のみが逆のパターン
筋の悪そうな②のみが逆のパターンについて、念の為確認しておきましょう。
①自らが正しいと確信している信念を持っている
②現行法において犯罪とみなされない行為、またその行為の主体者
つまり、「信念を持って行われる、犯罪性のない行為、またはその主体者」ということになります。
こちらも範囲が広いのですが、面白い言葉が出てきそうなのでいくつか具体的に考えてみましょう。
「政治演説」「生徒会への立候補」「起業」「作曲」「小説の執筆」「絵画の制作」などが挙げられるでしょうか?
あまりに範囲が広すぎて、逆に「それは違うだろ」とすら言えないようなラインナップとなりました。
面白いことに、政治家、起業家、芸術家、作曲家など、くくりとしてそもそもの「意思」や「信念」が必要な人達が行う行為がよく挙がるようです。
ただ、「筋トレ」「家事」「勉強」のような何気ない行為であっても、信念を持ってさえいれば「確信犯」の対義語となってしまいます。
やはり、行為内容自体を表す②を逆にしてしまうと、対義語として適当な言葉にたどり着けないようです。
①のみが逆のパターン
最後に、行為内容自体を表す②を固定した上で、行為の背景を表す①の意味を逆にしてみましょう。
①自身に信念や確信めいたものがない
②現行法においては犯罪とみなされる行為、またはその犯人
つまり、「信念なく行われる犯罪行為、または犯人」ということになります。
これはいくつか候補があがりますね。
「愉快犯」「故意犯」「模倣犯」が対義語として挙げられそうです。
「愉快犯」とは、世間を騒がせて、その様子を観察して楽しむような犯罪やその犯人を指す言葉です。
何かの思想に基づいて行われる犯罪行為ではないため、対義語と言えます。
「愉快犯」は次のように使うことの出来る言葉です。
数々の食品会社を脅し現金を要求しておきながら、ついぞ犯人が現金の引き渡し場所に現れることのなかったグリコ・森永事件の犯人は、日本全国を不安に陥れて楽しむような愉快犯であったと考えられる。
「故意犯」は、その行為が犯罪であることを認識しながら行う犯罪、もしくはその犯人です。
「確信犯」は「正しいことだ」という認識の元行われる犯罪ですが、「故意犯」は「悪いことだ」と認識した上での犯罪であるため、「確信犯」の対義語であると言えます。
ただし、一般的には「過失犯」の対義語とされているため、「確信犯」のど真ん中ズバリの対義語とは言えないかもしれません。
「故意犯」は次のように使うことの出来る言葉です。
彼は裁判で過失傷害であると訴え続け続けたが、故意犯であると断定された。
「模倣犯」は、他人が起こした犯罪の手口をまねて行われる犯罪や、その犯人です。
自身に信念があって起こした犯罪ではなく、他人が起こした犯罪そのものを模倣していることから、「確信犯」の対義語であると言えます。
ただし、模倣対象となった犯罪が確信犯であり、その犯人が持っている信念に共感した上で模倣して起こした犯罪であるとしたら、その模倣犯もまた確信犯であると言えるかもしれません。
「模倣犯」は、次のように使うことの出来る言葉です。
青酸コーラ無差別殺人事件は、市販の飲食物に毒物を混入させる事件、という点でグリコ・森永事件と手口が類似していることから、グリコ・森永事件の模倣犯であると考えられる。
「確信犯」は英語でどうやって表現するの?
「確信犯」を英語で表現する場合、どのように言えばよいのでしょうか?
直接的に「確信犯」を英語で表す言葉はないため、いくつかの言葉を組み合わせて表現することになります。
「確信犯」の類義語である「政治犯」であれば、“political criminal”や“political offense”などがあたるのですが、「政治犯」は「確信犯」に内包されるものであるため、直接的に「確信犯」の英訳とは言えません。
「確信犯」の英訳としては、“crime of conscience”が挙げられます。
確信犯という,思想的信念などに基づいて行われる犯罪
EDR日英対訳辞書
a type of crime, called crime of conscience
「確信犯」を誤用して使っている人の割合はどれくらい?
ここまで「確信犯」の本来の意味や類義語、使い方について説明してきました。
しかし、実際のところは「確信犯」という言葉の意味を誤解して使用している人の割合はかなり多いようです。
文化庁が平成14年・27年に行った「国語に関する世論調査」で、「確信犯」の意味についてのアンケート調査を行った結果、多くの人が「確信犯」を誤用していることが分かりました。
平成14年時点では「確信犯」を誤用して使っている人は57.6%であったのに対し、平成27年は69.4%に増加しており、誤用がより広まったと考えられます。
しかし、正しい意味で使用している人の割合に着目すると、こちらも16.4%から17.0%と微増しております。
「分からない」と答えた人の割合が18.8%から5.7%と大きく減少していることから、平成14年から平成27年までの13年間で「確信犯」という言葉を新しく知った人が増え、かつその人達が誤った意味で覚えていると考えられます。
これは憶測ですが、本来の意味での「確信犯」が、日常会話では使い勝手が悪いことが原因なのではないでしょうか。
本来の意味での使用シーンは日常会話では多くはない一方で、誤った意味であれば日常的に使用が可能です。
何かのタイミングで「確信犯」という言葉にプチブームが来て日常会話での使用頻度が向上し、結果的に「分からない」と答えた人が減少したことに反比例する形で誤った形で認識している人の割合が増えたのではないでしょうか。
「確信犯」の誤用はなぜ広まった?
実際にどのように「確信犯」の誤用が広まっていったのかを、再び文化庁のデータを元に考察してみようと思います。
以下は、年齢別での平成14年・27年の調査結果の推移です。
上の表では、平成14年から平成27年までのような13年間の推移を反映し、同じ層で比較出来るように並べたものです。
例えば、C世代は、平成13年に30~39歳だった世代ですが、平成27年の調査では40~49歳の世代にあたります。
このように約10年間の推移を反映したのが上の表です。
こちらのデータを見ると、A世代とE世代において、特に誤用の割合が増えているようです。
この2世代では、全体の推移と同様、「分からない」という回答をしている人の割合が減少するのに反比例する形で、誤った意味で覚えている人の割合が増えています。
A世代は、平成14年時点では高校生〜大学生でしたが、平成27年時点では大学生〜若手社会人となっております。
この世代の中で平成14年から平成27年までの間で「確信犯」という言葉にちょっとしたブームが起き、日常会話で登場する回数が増加した結果、「分からない」と答える人の割合が減り、誤った意味で覚えている人の割合が増えたのではないでしょうか。
E世代は、A世代に次いで誤用の割合が増えております。
E世代はA世代にとってちょうど親のような世代にあたるため、A世代と家族団らんなどの機会で会話をして触れ合う中で、A世代で流行った「確信犯」という言葉に触れ、「分からない」の割合が減り、誤った意味で覚えている人の割合が増えたのではないでしょうか。
文化庁の考察によると、「確信犯」という言葉ではなく一般的には「テロ」「テロリズム」などの言葉が使われるようになったこと、日常的に使いやすい形での使用が一般的になったことにより誤用が広まった、としております。
いずれにしても、「確信犯」という言葉が本来の意味で登場する機会が減ることに合わせて、日常会話の中で誤った意味で使われることが増え、結果的に誤用が広まっていったのだと考えられます。
「確信犯」の「誤用」はもはや誤用とは言えない?
ここまで「確信犯」の本来の意味について解説し、一般的に認知されている意味・使い方が誤用である、と説明してきました。
しかし、言葉の元々の意味だけが正しい意味で、それ以外が誤りであると必ずしも切り捨てられるわけではありません。
実際に、「確信犯」について説明している辞書の中には、これまで誤用とされてきた使い方を、使い方の一つとして認めているものもあります。
1 道徳的、宗教的または政治的信念に基づき、本人が悪いことでないと確信してなされる犯罪。思想犯・政治犯・国事犯など。
デジタル大辞泉
2 《1から転じて》悪いことだとわかっていながら行われた犯罪や行為。また、その行為を行った人。「違法コピーを行っている大多数の利用者が確信犯だといえる」
古文に登場する日本語が現代日本語とかけ離れているように、言葉はその時代に合わせて移り変わっていくものです。
一般的に多くの人が「確信犯」を「悪いと分かっていながらする行為」のように捉えているのであれば、それもまた、「確信犯」の正しい使い方の1つになっていくのではないでしょうか。
まとめ
この記事では、「確信犯」の本来の意味と使い方、類義語や対義語、誤用が生まれた背景などについて説明しました。
現代日本において、「確信犯」が本来的な意味で使用されるシーンは少なく、誤用されて用いられている機会が多いようです。
しかし、そのようなシーンに立ち会ったとき、「誤用だな」「訂正しなきゃ」「知らないのかな」などと思うようなことをせず、言葉の意味が新しい方向へと推移する貴重な瞬間を目撃しているのだ、というような好奇心を持てるようになると、日々使う言葉に対してより意味を持って接することが出来るようになり、面白くなると思います。